A2Z (講談社文庫)山田 詠美
講談社 刊
発売日 2003-01
オススメ度:★★★★
ひたすらかっこいい 2006-11-19
山田詠美の文章が好きで、気づくと夢中になっていつも一気に読んでしまう。
この作品も「詠美節」が全開。
彼女の作品が好きな自分は読んでいて気持ち良かったけれど
同時に少し物足りない気もした。
主人公と夫との関係、恋人との関係、
面白いし納得できる部分もあったけれど、
はたしてここまでシンプルにいくものだろうかと
ちょっと疑問も持ってしまった。
老練な書き手だが… 2006-07-18
最初に断っておくが、私はこの作者の小説をあまり好きでない。
文章は読みやすく、語彙のセンスも卓抜、構成力にも優れているが、
表現されている思想が
あまりにも露骨な選良意識と蔑視感情、
幼稚な自己顕示欲で埋め尽くされているからだ。
本編は途中まではそうした悪癖が上手く抑えられており、
反感を持たずに読めた。
主人公と若い恋人との照れ隠しめいた応酬も
リアルで共感の持てるものに仕上がっている。
だが、主人公と同性の親友の会話の辺りに
ファンの人にはそれこそが魅力なのかもしれないが
この作者の良くない部分がまた出てきてしまっている。
「雑誌に載ってるようなマニュアル通りの恋愛しか
できない若い女たちとは違う私たちは大人のいい女」
という優越感に集約される女性二人の自意識に
逆に幼稚で大人になりきれない心象が露呈している印象を受けた。
「三十代も半ばの編集者や大学の先生ってこんなに暇なのかしら?」
と白けた感慨さえ生じた。
主人公夫妻がそれぞれ異なる出版社に勤める編集者だという設定が、
物語の根幹を成す重要な設定であるにも関わらず、
仕事の描写にあまり現実味が感じられない点も気になった。
「仕事ではライバル」である夫婦の葛藤が
所詮感情面に留まる綺麗事の範疇を逸脱せず、
食い扶持を稼ぐ仕事で争う緊張感や切迫感に乏しい。
作者の理想や美意識を優先して、
主人公夫婦をせせこましい現実に囚われない造型にしたいのかもしれないが、
主軸となる設定に嘘っぽさを感じさせるやり方は率直に言って手落ちだと思う。
尚、この作者の作品は概して、作中の主人公と作者自身の思想がほぼイコールの関係にあるが、主人公が文字を扱う職である本編では特にその傾向が強い。
それゆえ、主人公が夫からも深い部分で必要とされ続け、
若い恋人からも新進の作家からも魅力ある女性として扱われる展開から
自己の分身たる主人公を不要に甘やかす作者の捩れた選良意識が覗く様で鼻持ちならない。
初めての山田詠美 2005-12-06
オランダとスペインを旅行してたときに一気に読んだ本の一つ。
自分の恋愛に対する考え方は幼稚だなぁと思っていたときに、勉強になるかなと思って手にした本。
初めて読んだ山田詠美の本。
35歳の既婚の女性文芸編集者と同業者の夫、そして年下の男との話。
最初のうちは、とにかく腹が立った。
ムカつく。
自分の恋愛を反省しようと思ってたのに、「おれのが正しい!」とか思った。
「『恋って仕様の無いものだと思うよ、私は』
『格好悪いよな』
『成生もそう思う?』
『うん。だって主人公のつもりになっちゃうんだぜ。柄にもないのにさ。美しい夕暮れの中で、切ない思いを抱えているおれ、なんてね、あ、涙、でてきた』
そういって、成生は、笑いながら泣き真似をするのだった。考えてみれば、恋愛小説の主人公は、いつだってその気だ。照れることを知らない。私たちは照れる。けれど、そうしながらも、主人公の役を降りない。」
どろどろした不倫小説じゃなくてさばさばしてるのはいいが、句点の多い甘っちょろい言い回しと、この年下男ってやつが気取っててムカつくなぁ、とか思いつつも洗練された年上女性に惹かれながら読み進む。
と、後半の展開は秀逸。
上手くいっていたようにみえた恋愛の裏で、実はマイナス要素が着々と積み上がっていて、些細なことからそれが表立って呆気なく壊れてしまう、感じが巧みだと思った。
というかそういうことが、自分の一番学ぶべきトコだったんだろう。
そして後半のその非常事態で、言葉や理屈で話を整理していく主人公の姿勢が泣ける。
「私は、つき合い始めの頃に、月を一緒に食べようと電話で彼が提案したことを思い出した。あれから、ずい分と長い時間が流れたような気がする。息を飲むほどに新鮮だった彼の言葉の数々は、もう私の耳に慣れている。彼もまた、同じように感じているのだろう。・・・こんな自分、好きじゃない。私は、そう思った。自己完結した世界の中だけで自分を好きでいられる程、私は強くないのだ。私は、いつも他人の手を必要としている。それも、一番、近いところにいる他人の手を。ぼくの好きなきみ。私は、自分がそれに値する者であるのを、いつも感じていたいのだ。」
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