PAY DAY!!!山田 詠美
新潮社 刊
発売日 2003-03-25
オススメ度:★★★★
???もうすぐ17歳になる双子の兄妹ハーモニーとロビン。教師の父親と証券会社で働く母親が1年前に離婚し、ハーモニーはサウス・キャロライナで父親と、ロビンはニューヨークで母親と暮らしている。夏休みを利用してハーモニーの住む南部の町ロックフォートを訪れたロビンは、そこでショーンという青年と恋に落ちる。だが、夏の終わりとともにニューヨークへ戻ったロビンに、運命の9月11日が訪れる…。
???本書は、アメリカ南部の田舎町を舞台に、2001年の同時多発テロ事件の被害者家族を描いた山田詠美の長編小説である。しかし、テロによってうちひしがれた少年と少女の悲劇というわけではない。犠牲者達の写真を見つめながら「私たち、お気楽なティーンネイジャーでいちゃいけないのかな」とつぶやくロビンの姿に象徴されているように、理不尽な暴力を前にして、口先だけの正義や道徳は、何も意味をなさないことを、著者は熟知している。本書で突きつめられているのは、一瞬にして家族を殺してしまうほどの暴力が確実に存在するこの世界で、人間はいかに成長していけばよいのか、という命題である。
???そうした重いテーマでありながら、恋人となかなか一線を越えることのできないロビンの戸惑いや、人妻との不倫を続けるハーモニーの、背伸びした恋のういういしさなどが、じつに晴れやかに描かれる。また、湾岸戦争帰りでアル中の叔父ウィリアムや、新しい伴侶を求める父親の姿など、兄妹を囲む家族の存在感も、物語を奥深いものにしている。そして「少なくとも、給料日には幸せになれる」と締めくくる著者の視線は、前向きで力強く、世界のすべてを祝福するかのように、やさしい。ラストシーンを読み終えた読者は、本書が、幸福な家族の物語であったことに気づくはずである。(中島正敏)
PAY DAY!!! 2009-07-19
とても温かくていい本だと思った。
悲しい中にもどことなくユーモアがあって、
アメリカ南部の温かい雰囲気が伝わってきた。
でもストーリーとPay Day との関連がいまいち薄かったので
タイトルとの一体感が感じられなくてそこは残念。
当事者としていちばん共感できるストーリー 2005-07-26
9/11のテロは私の人生を変えました。
仕事をなくし、たくさんの同僚をなくしました。
それでも生きていられるから、と前向きにがんばってましたが、
容赦なく映されるあのときの映像や写真や、したり顔で語る人たちや
責任のなすりあいのような文章は、全然こちらの気持ちを表していなくて、あのときの私には(もちろん今でも)痛すぎました。
その中で、初めてそして唯一、うなづけたのがこの作品です。
もともと山田詠美さんは大好きですが、やっぱり裏切られませんでした。
当事者でもない人に、簡単な言葉でテロ批判などされても、ましてや「あの時こうしてれば・・・」とか言われても、同情されても、正直ただ腹が立つだけです。思い出すだけでも涙が出るほどなのに、それについてミーハーな質問をぶつけられるときの気持ち。思い出したくはないけど、忘れてはいけない出来事。
詠美さんは、さまざまに絡み合う気持ちを見事に描いていると思います。
大切なものを突然なくして、しかもその怒りをぶつける相手もいない、
それでも生きていくことのせつなさや素晴らしさ。悲しくても、時間はどんどん経っていて、新しい「大切なもの」とも出会っていく。
これで、私はあの事件を自分の中で昇華させることができたように思いました。個人的に、とても感謝しています。
あらためて、詠美さんが大好きだと感じました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(ほし10こ!!) 2005-04-30
9.11をことさらに強調したりせず、ある家族におこった喪失のできごととしてそのままの大きさでとらえられている。
だからこそ、9.11の本当の悲惨さ、悲しさ、恐ろしさなどがきちんと読者に伝わると思う。そして、今、大事にするべきものを考えさせてくれた。
あ〜それにしてもロビンちゃんみたいな恋した〜い!!!(笑)
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