色彩の息子 (新潮文庫)山田 詠美
新潮社 刊
発売日 1994-05
オススメ度:★★★★
人の多面性を、色彩で表した秀逸な短編集です。 2009-10-06
妄想、孤独、虚栄、倒錯、愛憎、嫉妬、再生……。金赤青紫白緑橙黄灰茶黒銀に偏光しながら、心のカンヴァスを妖しく彩る12色の短編タペストリーです。
12編全てを挙げて感想を述べたいのですが、ここでは三つに絞ります。
特に印象に残ったのは、第五編白色の「病室の皮」です。善良さを装って病んでいった自分が、かつて住んでいた病室の壁の色を描いています。
誰でも自分を語るときには、装ってしまうものだと思います。そして、人付き合いの上手いと言われる人ほど装いが多いそうです。
ですが、装っている自分を病んでいると認識した、心の変化が痛ましくリアリティーを以て心に染みる一遍でした。
また第九編灰色の「雲の出産」他人の優越感をくすぐってしまうとし子の色を描いた一遍も印象的でした。
キャラクター設定は逆ですが「蝶々の纏足・風葬の教室」新潮文庫1997/03/01に収録された表題作「風葬の教室」を逆の立場から見たような一遍です。
短編ながら複数の登場人物の描写が密で、華やかな印象を受けました。
白眉は第十編茶色の「埋葬のしあげ」です。自分を埋葬する土の色を描いています。
劣等感を意識し、身近なものとの比較の中で生きてきた自分と決別する大人への変化が気持ちよい一遍です。
小説は、登場人物を典型、類型として描く単純な描写が気軽に読めて、わかりやすいですが、
この短編集は、人の多面性をその変化する瞬間を捕らえ、色で表すことによって、描いている内容の複雑さを超えて心に届いたように感じました。
短編集の新たな可能性を示した秀逸な作品であると感じました。
色彩 2008-03-12
残酷なのに、文章はくらくらする程美しい、山田詠美さんの傑作短篇集です。
「心の動きを言葉にしたらこのようになる」作者の頭には、そんなタイトルの標本があり、言葉のピンを抜いて羽ばたかせているのか、と本気で思いました。
鮮やかな色彩が、読む人を包み込みます。
色彩を通して 2006-06-07
まず、装丁がよい。
話によってぴったりの色紙を、短編と短編の間にはさみこんでいるのが粋である(ハードカバーでも、文庫本でも)。
そういうふうにしているだけで、本の世界が頭の中だけではなくて、実際に視覚から色を通して広がっていくから不思議だ。色紙があるとないとでは、話の読後感や印象に大きな差が出てくるのではないだろうか。
そして、話の質がよい。
山田さんは、ことばにできないとても微妙なこころのひだの動きを、誇張しすぎず的確に、描写している。時にそれは読者の心を言い当てすぎて、なんだか「痛い」共感を呼ぶ。私には灰色の章「雲の出産」がそれであった。この短編には、外見やふるまい、内面さえも愚鈍な人間を前にして、人がどれだけ残酷になり、優越感を感じていい気になれるかということがとても分かりやすく描かれている。私は自分のことを言われているようで、おろおろしてしまった・・・。
どこにでもある人の心の、ちょっとした動きを、よくここまで繊細に忠実に再現できるものだ、と感嘆する。汚い感情でさえも、色になぞらえうつくしい作品のように感じる、傑作です。
さらに詳しい情報はコチラ≫[0回]
PR